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ロードセルのお話

1.前口上

2.力・質量・重さ

3.トランスデューサ・ひずみゲージ・ロードセル

4.ロードセルを作ってみる

5.ロードセルとアンプのカタログを読む

6.セルとアンプの接続−−システムを作る

7.質量計の基礎

8.質量計/力計の検査

9.参考サイト

10.こぼればなし

1.前口上

ロードセルに出会ったのは、入社まもなく、工場実習を終わって技術に配属されたときです。材料
試験機の精度検査を仰せつかりました。「山登りなどしていてゴツイから、分銅を上げ下げさせて
も平気だと思った」が、後にうかがった技術課長の弁です。一日がかりでお役所に(東京の計量研
究所と大阪の同支所の2カ所しかない国の研究機関)検査依頼の書類を出したと思ったら「一カ所
違うから訂正印を押しに来い」と呼び出されたり、検査官のお手伝いで精度検査の実務をやったり
して、計量管理の世界に興味を持ち、かなり後になってですが、(自分の小遣いと時間をつぎ込ん
で)一般計量士・環境計量士を取得しました。
一方、品質管理でやたら計算をやらされたことからコンピュータという面白い道具(オモチャ)に
も早くから興味を持ちました。
諸般の事情で、本来の技術部門から設備部門へ志願して移りましたが、最初から目標としていて、
結局、現役最後まで取り組んだテーマは、「ロードセルで重さを量っていろいろ制御する」ことで
す。重さをはかるためには、秤屋さんの技術も要りますし、そもそも計量にはどんな法規制がある
のかも大事です。
さらに、制御するためには「計測制御とは何ぞや」という理論から、実際に現場で動くものを作る
ためのボードマイコンからシーケンサまでの腕も要る、というわけでいろいろ独学しました。
現場でお役にたつ仕掛けが作れるようになり、それなりの定評をいただくようになったころ、「そ
の腕を次の世代に教えてくれ」と言いつかりました。
技術部門の時代から、いろいろ書いていましたが

  技術部門の勉強会資料「コンピュータの話」    1972
    原理・アルゴリズム・アセンブラ入門。
        蛇足ながら1971にインテル社の4004、ザイログ社のZ80とNEC社のTK80ボー
    ドが1976に出ました。
  工場のフォアマン教育「計測」          1980
    計量の法規制。温度センサ。質量計。信号。制御。当社の計測管理。
  設備部門のプロ対象の「ロードセル技術教科書」  1986
    ロードセルの原理と取り扱い。マイコン・シーケンサとつなぐ。秤の点検・調整。
  技術系学卒新人向け 「計測と制御」       1995
    「計測」とほぼ同じだが、工業高校の教科書と連携した内容。
などなど。

これらをもとにして「ロードセルのお話」をまとめました。
時代の流れで、「ボードマイコンにA/Dカードを組み合わせ、変換チップを直接叩いてデータを
取り込む」とか、「8255をモードゼロで初期化して」と言った技術は、もはや普通に現場で働く仕
掛けを作るための必須技術では無くなったと思うので、カットしました。
また、社内向けでは無いので「第三工場の1号機と2号機のちがいは」とか、現場で実際に走って
いるボードマイコンやシーケンサのソフト例は省略しました。
自分が体験したことを書いていますので、使用した部品・測定器などは当時のもので、・廃番にな
っている・そのメーカはもう存在しない、ということもありますが、ご容赦ください。

少しでも参考にして頂ければ、と思います。またきっと私と同じような分野で活躍し、より技術を
お持ちのかたがいらっしゃると思うので、ご意見ご指導をいただきたいです。
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2.力・質量・重さ

普通、はかりと言えば「重さ」をはかる道具ですが、公的には(計量法では)重さという計量単位
はなく、「質量」と「力」がこれにあたります。
はかる道具は単位の後ろに計を付けたのが正式名称なので、時間を計るのが時間計(時計とは言わ
ない)、質量をはかるのが質量計、力をはかるのが力計です。
秤とか重さはかりとかいった言い方は「公的には無い」のですが、ここでは適当に使っています。

計量法では、次の7種を基本単位と定め、他の単位はこれらからみちびく誘導単位です。

量      単位と呼び方      原器(プロトタイプ)とその現示方法
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
長さ     m メートル       真空中の光の速さから
質量     Kg キログラム   キログラム原器そのものでしたが、質量とエネルギーの関係を使い
               プランク常数からみちびく方式に2014年ごろ切り替えられる予定。
時間     s 秒             セシウム133原子の光の周期から
電流     A アンペア       2本の導線に電流を流したとき引き合う力で定義するが
               現示はジョセフソン電池とホール抵抗による
温度     K ケルビン       水の3重点と、補助として各種金属の凝固点など
光度     cd カンデラ     最初は標準ろうそくだったが、国際比較でばらつきの少ない
               方法が検討され、現在は極低温電力置換放射計
物質量   mol モル       炭素12の質量から

力は誘導単位で (質量×長さ/(時間×時間))として求めます。
kg×m/(秒×秒)をN(ニュートン)と呼びますが、重量キログラム(KgwまたはKgf)
も暫定的に認められています。
9.80665Nが1Kgwに相当します。
基本単位は質量を除いて「やりかた」を標準にしているので、技術的条件さえ満足すれば、だれで
も、どこでも再現できることになります。
質量だけがキログラム原器=「モノ」を標準とするので、天秤を使って「正原器と副原器の比較」
「副原器と副副原器の比較」と、順々に標準を移してゆきます。

質量を直接はかるのは難しいので、万有引力の法則に従って質量に比例して働く力 f つまり
重力をはかります。
      f=m・g  f:重力   m:質量
             g:重力の加速度 (標準で9.80665m/sec2)

gは場所によって値がかわります。月面では重力が少なくなってウサギのように軽く跳べるのはご
存じの通りですが、日本国内では、北と南、海面と富士山の頂上ではいずれも1/1000ほどの
差が出ます。位置だけでなく、地殻内部の構造によっても変わります。
天秤ばかりではつりあいの両側に同じgがかかるので関係ないですが、バネばかり(ロードセルも
含む)の場合は、gの違いがそのまま誤差となります。
計量法では、精密なバネばかりについて、日本国内を16の地区に分けその場所のgに応じた補正
をすることを求めています。
たとえば埼玉県は第9地区です。

地区      g           行政区画
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
9     9.798   群馬県 埼玉県 千葉県 東京都(八丈支庁管内および
                    小笠原支庁管内をのぞく)福井県 京都府 鳥取県
            及び 島根県

精密にその場所のgを知るには、国土地理院のサイトからデータを入手出来ます。

さらに、分銅(通常の鉄製は比重8.0とする)と比重のちがうものとの釣り合いを考える時は、
空気の浮力の補正も必要になります。
最近は高精度の(桁数がたくさん出る)秤が簡単に手に入るようになりましたが、末尾の桁まで正
しい値を得るためには、それなりの気遣いが不可欠で、g、浮力、温度、湿度、対流、静電気、
磁気、電磁波、などの環境条件が効いて来ます。
高層ビルの上層階で風による建物の揺れが誤差となった例があるそうです。

現場の秤の使われ方をみると、上記の補正もさることながら・しっかりした場所に置き・正しく水
平を出す、ことをまずやっていただきたいです。
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3.トランスデューサ・ひずみゲージ・ロードセル


トランスデューサー(変換器)は、ある量を他の量(測定しやすい)に変える道具です。
たとえば、アナログ電圧計は「電圧」を「指針の角度」に変えるトランスデューサーです。
ロードセルは、「力」を他の量に変えるトランスデューサーですが、油圧式のような例外を別にし
て、普通ひずみゲージを使い、「力」を「電気出力」に変えるものを指します。

レールのような金属の棒の伸び縮みを知りたいとします。別の金属線をレールに接着して(電気的
には絶縁して)取り付けると、レールの伸び縮みに応じて金属線も伸び縮みします。
延びると長さが延び、断面積が減るので電気抵抗が増え、縮むとその逆で電気抵抗が減ります。
つまり、長さの変化が電気抵抗の変化に置き換わった訳です。
これがひずみゲージです。
現在のひずみゲージは、細かい部分のひずみを拾うために抵抗線を何回も折り返して小さくした形
になっています。詳しくは、最後にある関連資料から専門メーカのサイトの技術解説をご覧くださ
い。
最初の用途は、航空機の翼のたわみの測定だったそうですが、現在では、いろんなものに力を加え
たときにどのように変形するかを測定するのに広く使われます。

金属に力を加えると、変形します。その変形=ひずみをはかれば加えた力がわかります。
ひずみを知るため、物体に抵抗体を接着し
  力 −−> 物体の寸法変化 −−> 抵抗体の寸法変化 −−> 抵抗の変化
として捕らえるのが「電気抵抗線式ロードセル」で、普通ロードセルというのはこの方式です。
バネはかりの一種ということになります。
この方式のロードセルは、1940年に米国のシモンズが基本特許をとり、少し遅れてルージ(事
実上の開発者)とドフォレスト(三極真空管の発明で有名)が実用化しました。
販売はボールドウイン汽車会社が行い、1959年シモンズの特許が切れるまで米国内で独占しま
した。
そのほか、1954年ベル電話研究所で半導体の圧電効果を使ったひずみゲージが開発され、感度
は、抵抗式の100倍以上ですが、温度変化に敏感なので、特別な用途に限って使われます。国産
もされているようですが、私は使ったことがありません。

私が最初にお目にかかったロードセルは、東洋ボールドウイン社製の材料試験機です。サンプルを
つかんで上下に引っ張ったり圧縮したりして変位と力の関係を知ると言ったもの。元祖である米国
のメーカの名前を取ってインストロン型試験機とも呼ばれます。
材料の破断強度などをはかるのです。
昭和30年代に私が入社したのと同じころ会社に設置されたのですが、上下に動かす仕掛けはパラ
プッシュの真空管アンプを使ったDCサーボ。ロードセルの出力をメカニカル・チョッパの真空管
アンプで増幅します。なにかあると回路図を見ながらテスターで..とずいぶん楽しめ?ました。
設備部門に移って自分でシステムを組むようになってから、ロードセルはおなじみのボールドウイ
ン、アンプは仕事場に近くていろいろ教えてもらえたユニパルス社製を使いました。
他にもおなじようなものを作っているメーカはありますが、この2社しか使った経験がないので、
例に登場するのは、二社だけということになります。

ひずみゲージについては、私は「ひずみゲージ入門 玄 忠 著 コロナ社 昭45」で勉強しま
したが、今は絶版です。各メーカのサイトに技術資料があります。共和電業から「ひずみゲージ入
門」という小冊子が出ています。

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4.ロードセルを作ってみる

原理を理解するために、一度、自分でロードセルを作ってみます。

ひずみゲージの出力は抵抗の変化として現れます。抵抗をはかる身近にある道具として、回路テス
タがあります。1.5Vぐらいの電圧を掛け、流れた電流からオームの法則で抵抗値を求めるので
すが、ひずみゲージの抵抗変化はごくわずかなので、とても実用になりません。
抵抗の変化をごく精密にはかる仕掛けとして、ブリッジ(ホイートストン・ブリッジ)を使います。



印加電圧(excite)を加えると、信号電圧(signal)が出ます。
4個の抵抗のどれかが変化するとそれに応じた電圧が発生することになり、バランスしたとき
R2/R3=R1/R4 となり電圧計の読みはゼロとなります。

抵抗の絶対値を正確にはかるためにブリッジを使うときは、正しく値のわかっている3個の抵抗と、
値のわからない1個の抵抗を組み合わせ、値のわかっている抵抗をいろいろ取り替えて発生した電
圧がゼロになったときの3個の値から計算しますので、加える電圧そのものはあまり問題になりま
せん。電圧ゼロの点が読み取れればそれで良いのです。

ロードセルの場合のブリッジは、抵抗の変化に従って発生したごくわずかな電圧の変化から、セル
に加わった力を知るので、加える電圧が変化すると発生する電圧も変化し誤差となります。
ブリッジまでの途中の導線も抵抗はゼロでないので、少しですが電圧が低下します。精密にはかる
ために、電圧を加える側に2本のリモートセンシングをつけた6線式にすることもあります。
ブリッジだけでなく、精密に抵抗をはかる場合は、電圧を加える線一対と、測定する場所で本当に
電圧がいくらかかっているか測定するための電圧測定の線一対を合わせて使います。精密抵抗計に
は、二対の線を一緒にした4端子リードが付属します。
そのほか、精密に抵抗をはかるときの問題として「自己発熱」があります。はかるために電流を流
すと、測定される抵抗が発熱し、そのため抵抗値が変化して誤差となるものです。

ロードセルを作ってみましょう。

力を受ける金属(起歪体)の形は、カンチレバー(片持ち梁)とかコラム(円筒)とかいろいろあ
り、ゲージの貼り方・ブリッジの組み方もいろいろですが、詳しくは各メーカの技術資料をご覧く
ださい。
ここでは、構造の簡単な片持ち梁で温度補正など無視して、とにかく出力電圧の大きな組み方にし
ます。

*ゲージ  東洋ボールドウイン  ECF−5−350−S
      フィルムゲージを表裏2枚ずつ 計4枚はりつける。
*接着は同封の接着フィルムをつかうのが正式だが、技術と道具がいるので普通の瞬間接着剤(シ
  アノアクリレート系)をつかう。
*接着面をよくみがき(アセトンなどの有機溶剤を使うのが正式だが、工作場にある砂の入った手
 洗い剤も有効)乾かしてケガキ線を入れ、接着剤をうすく塗り、表.裏 同じ位置に長手方向に
 張り付ける。
*リード線をハンダづけし(たとえば0.2mm2VSF)端子台につなぐ。



この図のつなぎかたでは、おもりをさげると
        ・表が伸び、裏が縮む  
ので
        ・表の抵抗が大きく、裏の抵抗が小さく 
なる。
このため、おもりがないときをゼロ点とすると
        ・A点の電位は  マイナス側に
        ・B点の電位は  プラス側に
ずれ、結果として、Aを -  Bを + とする電圧が発生します。



ロードセルが出来たら、入力側に電源(DC8〜12V)、出力側に高感度のボルトメータ(テス
ターでは無理。デジボルまたはガルバノ)をつなぎ、0〜1Kgのおもりを下げて出力電圧を読み
取り、グラフを書いてみてください。
また、振動の多い現場に置いて、アンプのローパスフィルタを入れた場合と入れない場合の違いを
体験してみてください。

    ・ロードセルの弾性体(金属)のバネ定数は温度によって変わる。
     (おなじ荷重でも温度が変わるとヒズミの感度も変わる.)
    ・ゲージの抵抗値も温度の影響を受ける。

そのため、この「ただ張り付けただけ」のロードセルは、温度によって大きく影響されます。

ひずみゲージが変形したときどれぐらい抵抗値が変化するかはもっとも基本的な特性であり、ゲー
ジ率としてあらわします。ロードセルとして出来上がったものでは関係ないが、ロードセルそのも
のを設計するときに必要な基本特性です。

        εを寸法変化率   △L/L
        Fをゲージ率(gage factor)
        抵抗の変化率を   △R/R    とすると
    △R/R = F・ε  である。
[例]
    ゲージ率 F=2.00  抵抗値=120.0Ω のゲージが 
   ε=2000x10-6 だけひずむと、抵抗変化は
        △R=R・ε・F=120.0・2000・10-6・2.00
      =0.480Ω
ゲージ率を測定するためには、ゲージを弾性率(ポアソン比)の良く知れている鋼鉄のビームに接
着し、加えた力から ε を求める。つまり破壊検査なので、抜き取ったサンプルの値をロットの
値として表示します。
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5.ロードセルとアンプのカタログを読む

ロードセル

・引張型/圧縮型

ロードセルはいろんな形式がありますが、大抵、力をどちらにかけても(引張/圧縮)同じように
出力が出ます。もちろん、出力電圧は+−が逆になります。引張型か圧縮型かは力をかけるための
治具も関係するので、両側に同じように出力が出ても、両用でない型式ならメーカーとしての精度
保証は校正されている片側だけです。

・定格荷重

ここまでは かけてよいという荷重。「はかり」を作るときは風袋もこのなかに入るので注意。
ごく短時間なら定格の150%ぐらいかけてもこわれません。逆に、風袋のように常時かかる荷重
は定格の50%以下とするのが望ましいとされます。荷重が限界を越えるとゲージが永久変形しま
す。(ゼロ点が大幅にずれます)

・印加電圧

ロードセルに出力させるために、外から印加電圧をかけます。印加電圧が高ければ出力が大きくな
り、以後の処理がラクになりますがゲージの自己発熱などの問題が出ます。普通のロードセルは最
大15Vまで印加できますが、DC10Vかけて使うのが普通です。

・定格出力

定格荷重をかけたときの出力電圧。
たとえば、定格10Kgのロードセルで出力2mV/Vとは、10Kgの荷重で、入力1Vあたり
2mVの出力がでるという意味です。
荷重2Kg 印加10Vなら 4mVでることになります。
普通のロードセルでは、1.5mV/V から 3mV/Vぐらいです。
なお、ROと添記されることがありますが、 ReadOutput(定格出力)の意味です。

・直線性

荷重と出力の関係。精度そのもの。これのよいものは値段も高い。ただし「はかり」として組み立
てたときの精度は、ロードセル・アンプ・機械部の総合だからロードセルだけ精度をはりこんでも、
よいはかりはできません。

・ゼロバランス

荷重をかけない、はだかのロードセルに印加電圧をかけたときの出力電圧。ほとんどゼロが望まし
い。ゼロバランスがくずれるのは
   *ブリッジを作っている4枚のゲージの抵抗値にバラツキがある。
   *弾性体が使用中に永久変形した
のどちらかです。

・端子間抵抗

普通我々が使うロードセルは350Ω型(350Ωのゲージを4枚使ってブリッジを組む)です。
そのほか120Ωから700Ωぐらいのものがあります。この項目は、アンプの能力つまり印加電
圧を供給できる電流の容量に関係します。

・温度範囲

ロードセルには 温度補償範囲 が決められています。この範囲なら温度補償機能が働いてカタロ
グのデータ内に入るという意味です。それも、ゆっくり温度が変化した場合の話で、急激に温度が
変わってセル全体が同じ温度でない場合は精度が出ません。
以上は、精度が保証される範囲ですが、ロードセルはゲージを接着剤で金属に張り付けたものです
から、あまり厳しい条件ではゲージがはがれてしまい、使用不能となります。この辺の厳しい限界
は、一般的なカタログには書いてありません。
特に高温で使うロードセルとしてセラミック溶射接着によるものが1000゜Cまで使えます。

・ひずみ

ロードセルの受けた荷重の大きさ(等価ひずみ)をSTRAIN(ストレイン)で表します。
1mV/Vの出力を発生するようなひずみを
 2000(10ー6)=2000μ(マイクロ)S(ストレイン) とします。
                           0。5mV/V=1000μS
                2mV/V=4000μS

ロードセルアンプ

・形式

ACかDCか。
アンプはつまり
    *ブリッジに印加するために一定の電圧を発生する仕掛け
        *ブリッジで発生した微少電圧を大きくする仕掛け
の組み合わせです。
真空管アンプの時代は安定なDCアンプが作りにくかったので
        *DCを印加し発生した直流電圧をメカニカルチョッパー
     (いわゆるバイブレータ)で疑似交流にして交流アンプを使う
        *500Hzぐらいの矩形波を印加する
        *50/60Hzの商用交流をトランスで落としてそのまま印加する
     (いいかげんなやりかたです)
といった方法が使われました。
現在は、DC印加/DC増幅が主流です。
  たとえば正負振り分け型の印加電源と平衡差動アンプ
同じロードセルでもDC特性とAC特性は少し違うので、校正するとき、実分銅やループなど、実
際に力を掛ける場合は良いのですが、抵抗の組み合わせによる場合はその目盛り付けがDCによる
のかACによるのかによって、アンプの入力インピーダンスによるズレが生じます。
材料試験機では、矩形波を印加する方式が生き残っているようです。
なお、交流印加のアンプではゼロ点を2ヶ所(ACバランス=C容量 DCバランス=R抵抗)で
合わせます。

・適用ロードセル

端子間抵抗の範囲と供給できる電流を示します。大型のはかりでは、後で述べるようにロードセル
を並列につないで使うので、電流容量が問題になります。

・印加電圧

ロードセルの入出力抵抗にもよります。

・ゼロ調整範囲

風袋消去などのため、ロードセルをつないだ状態でゼロ点をずらします。
   *R.T.I=入力換算の意味 refer to input
[例]
定格荷重10Kg・定格出力2mV/Vのロードセルに印加電圧10Vのアンプをつなぎ4Kg荷
重をかけた状態を出力ゼロとするなら、必要なゼロ調整範囲は
  4[Kg]/10[Kg] ・ 2[mV/V] ・ 10[V] = 8mV
すなわち、−8mVをゼロ点調整のため入力に加えればよい。外部からの抵抗調整でも良い。


・ゲイン調整範囲

ロードセルに荷重をかけたとき、アンプの出力電圧が定格まで出せる範囲。

[例]
 定格10Kg・2mV/Vのロードセルを [ゲイン最大のとき1mV/Vの入力から10Vの
定格出力が出せるアンプ] につなぐと5Kgまでの荷重に対して定格出力10Vを出せる。

・出力信号
信号の受け渡しで、わかりやすいのは電圧信号ですが、出力側で正しく10V出ていても途中の線
の抵抗のため(ひどい場合としては線が外れたとき)相手に正しく10Vが届いているかどうか保
証できません。そこで、計装の世界では電流出力(たとえば4〜20mA)のほうを標準として使
います。
電流出力では送り出した信号電流が必ず出力側に戻ってくるので、相手にどう届いているかをチェ
ックし、補正します。電流信号を電圧信号に変えるには、温度変化の少ない抵抗を1本受取側に並
列に入れれば良いのです。たとえば、4〜20mAを250Ωで受ければ1〜5Vになります。
ロードセルアンプから受け取り側までの距離があまり長くないときは電圧出力でも構いません。
受渡しについては、あとで詳しく述べます。

・フィルター

はかりには細かい変化(高い周波数)にも対応しなければならない場合と、細かい変化を平均化し
ないとブレがひどくて計りにくい場合があり、フィルターによって高い周波数の変化をカットする
ようにします。

[例]
カットオフ周波数 1Hz  減衰率 −12db/oct とは
直流のとき 0db であったものが
1Hzになると −3db(つまり電圧が1/2)下がり
この時点でのグラフの傾きが
    *周波数が2倍(オクターブ)増える毎に
     −12db(電圧が1/16)下がる
という意味である。

−3db下がる点をカットオフ周波数という
db(デシベル)とはエネルギーの強さを比較する単位で 10・log10(P2/P1)で求める。    

・ゼロドリフト

ICをはじめ、アンプを構成している部品は温度によって特性が変わります。
ゼロドリフト 1μV/℃ RTI とは、温度が1℃変わるとアンプの入力が1μVずれたに等
しい変動が出るという意味です。

[例]
この特性のアンプに定格荷重10Kg 出力2mV/Vのロードセルをつなぎ10V印加してゼロ
点を合わし、ここからアンプの温度が5℃動いたとするとゼロ点のズレは
            5℃ × 0。001mV/℃
    10Kg × −−−−−−−−−−−−−−−−  = 0.0025Kg  
                        2mV/V × 10V
つまり見かけ上、2.5gの荷重の変化が生じたようになる。(+側か −側かは別にして)


・ゲインドリフト

同様に温度によるゲインの変動を示すもので、ふつう秤量(フルスケール)に対する%で示します。

[例]
0.1%/℃とは、フルスケール100Kgに合わせた状態で5℃動いたとき見かけ上0.5Kg
フルスケールが動くことを示します。

   PPMは 1/1000000 = 1/10000% = 0.0001% のこと。
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6.セルとアンプの接続−−システムを作る

・アンプ出力のかたち

ロードセルアンプの出力は、本来アナログ電圧ですが、結果を
       *7セグメント[8888]でディジタル表示
        *アナログメータで表示
など、表示機能を付けられます。さらにアナログデータ出力として
        *DC電圧を出力
        *計装の標準である4〜20mAの電流出力
などもありますし、ディジタル・データ出力として
        *DIO(BCDパラレルなど)
        *シリアル出力(RS232C USB その他)
など、いろいろの出し方があります。

・ロードセル入力

ロードセルの中身はブリッジですから、印加電圧・2本 出力電圧・2本の計4本つなげばよいの
ですが、印加電圧の導線の抵抗による誤差を無くすために、6線接続も使われます。アンプが6線
用に設計してあるときは、ジャンパー線を付けて4線でも使えますが、逆は出来ません。そのほか
シールドも加わります。
コネクターの場合は、各社ともNDI(日本非破壊検査協会規格)に従っているので統一されてい
ますが、ケーブルの色分けはまったバラバラです。コネクターは、多治見無線電機製が主流で

プラグ    (ケーブル側) 7ピン            PRC03−12A10−7F10.5
レセプタクル (パネル側)  7ピン                PRC03−21A10−7F
記号  A      B      C     D      E      F      G  
   印加+ 出力− 印加− 出力+ シールド  補正+ 補正−

・ロードセルのチェック

正しく校正された(下記を参照)アンプにつなぎます。力が加わっていないとき、出力がほぼゼロ
であることを確認します。つぎに、分銅やループといった「値の解った力を発生する道具」で力を
かけ、ゲインを確認します。
そのためには、適当なアンプ・指示器につなぎますが、タンクスケールとかトラックスケールとい
った大型の秤では複数個のセルを並列に使うので、それぞれのセルを現場で点検調整するときは、
電池で働く携帯型のアンプを用意すると便利です。
  たとえばユニパルス社のF480
詳細は「秤の調整」の項で説明します。

・アンプの校正と試運転

アンプだけで校正するときは、セルの役目をするロードセルチェッカーを入力につなぎます。
  たとえばユニパルス社の513B
この中身は精密抵抗とロータリSWで、0V/V,0.5mV/V,1.0mV/Vという具合に
ロードセルの疑似出力を出します。
また、抵抗一本だけでも、抵抗オフ=ゼロ調整、抵抗オン=ゲイン調整、が出来ます。
この場合の抵抗は、少なくとも温度変化のごく少ない必要があります。
そのほか、自動はかりのように、細かく入力を変化させる必要があるとき、私は次のような手を使
いました。
  イ  513Bのダイヤルをゼロに設定してアンプにつなぎ、信号出力に並列に基準電圧発生
     器(横河 2553型)からからmV入力を加える。1/N機能を便利に使う。
  ロ  可変型のキャリブレータ(ユニパルス社520A)をつかう。ポテンショで連続して変
     化できる。

・A/D変換

ロードセルアンプ出力のようなアナログデータを、デジタル表示したり、パソコンやシーケンサに
取り込んで処理するためには、A/D変換(アナログからディジタル)する必要があります。
変換作業中に入力するアナログデータがばらつくと誤差になるので、必ず「待て」を掛けます。
一般的な手順は
        *アナログデータの変化を止める。(ラッチまたはホールド)
        *A/D変換のスタート命令を出す。
        *変換が終わったという信号−プリントコマンド 又はEOC(エンドオブコンバージョ
     ン)−を受ける。
        *ディジタルデータを表示したり、マイコンに送ったりする。(読み取り)
        *ラッチをはずす。
つまり、一定時間毎にデータが出てくることになります。
A/D変換では 速度と有効桁数(分解能)が問題になります。
秤の場合は細かい変動をならすフィルターを入れることが多いので、むやみに変換速度をあげても
意味がありません。そのかわり分解能が問題になります。

・システムを組んでみて

チェックは、アンプの出した信号の確認と、その疑似信号を受け側に入れてみます。

アナログ渡し  アンプのアナログ出力を外部のA/Dで変換し処理。
  古典的な方法。チェックはテスタ(デジボル)と基準電圧で出来ます。FA用途では分解能の
  高いA/Dがなかなかありません。信号の絶縁が難しくアース電位で悩まされたことがあり、
  アンプのアースを切り離し、筐体をそっくり浮かして(絶縁して)収めたことがあります。

  アナログアンプのチェックに必要な基準電圧は、ちゃんとした発生器があれば申し分無いです
  が、乾電池とポテンショで作れます。
  要は、ある時間、安定した電圧が出れば良いので、出ている電圧をすこし桁数の多いデジボル
  で確認出来れば、充分実用になります。

I/O渡し   アンプからBCDパラレルなどのデジタル出力を出す。
  配線が増えてスマートでは無いのですが、ソフト的には一番組みやすい。有効桁数が増やしや
  すい。チェックは、シーケンサの場合普通のIOチェックで出来ます。シーケンサの入力カー
  ドにつないだとき、各ポートの時定数のばらつきのためか、充分変換時間/取り込み時間を見
  ているはずなのに、「BCDでないデータが来た」のエラーが時々出て悩まされました。

通信渡し    アンプから232Cなどのシリアル信号を出す。
  ソフト面は比較的簡単ですが、ハード面ではコストが上がります。信号の絶縁は確実です。
  チェックはパソコンをターミナルモードで使えるので、一番ラクです。232Cの他、RS
  485(422とほぼ同じ)のもあります。USB形式のは私は知りません。

バス渡し
  イーサネットのような汎用バスラインか、CC−LINKのような専用バスラインを使います。
  一番進化した(最近になって出てきた)方式です。アンプ側で専用のオプションを付けたりし
  て、やはりコストが上がります。チェックのための道具はありますが、高価で、結局、受け側
  でモニタするしか手がなく、かなり大変そうです。

  この方式が最初に現場に入ったときの保全さんの意見ですが、ネットワークに参加している子
  局が一台でも落ちるとネット全体が落ちる式だと、「故障/点検のとき非常にやりにくい」と
  いうことです。

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7.質量計の基礎


・言葉

質量 重さ 質量計 はかり 秤
  すでに説明しました。計量法では、質量/質量計です。
  よく現場で、計量器とか秤量器とかいう言い方を使いますが、止めて欲しいです。
  温度をはかるのも圧力をはかるのも計量のはずです。
直視はかり 指示ばかり
  載せただけでただちに重さの出るはかりを言います。
自動はかり
  受け入れ、あるいは払い出していって設定量になると自動で止まるはかりです。俗に、上記の
  直視はかりのことを自動はかりと言いますが、間違いです。
ひょう量
  そのはかりではかれる最大の量です。スパンとかフルスケールといういいかたもされます。

・法規制

計量法が中心です。経済産業省の管轄で、計測標準に関する研究などは独立行政法人産業技術総合
研究所の計量標準総合センター(旧計量研究所)が行います。また(社)日本計量振興協会が民間
団体をとりまとめています。
計量に関するすべてのことが取り締まりの対象になっている訳でなく
  取引や証明に用いる
  国民の安全や利益に関わる
計量器を中心に規制しています。一般には、国は下記のトレーサビリティが保たれるようにし、そ
れによって計量の正しさ全体を保っています。
タクシーの料金メータなどの特定計量器は公的機関がチェックしていて、都道府県毎に実務を担当
する計量検定所があります。(県によって名前が違う)
質量計(重さはかりですね)で、一般商店などで使うのもこれに含まれますが、使用場所に出向い
て行う検査は都道府県の職員だけでは手が回らないので、国家資格を持つ計量士も手伝います。

・トレーサビリティ

一般に使われる計量器の正しさが、しかるべき精度と経済性でもって、上位の標準によって保証さ
れ、その保証のネットワークが国家標準、更には国際標準につながる姿をトレーサビリティと呼び
ます。これは、国際的な品質規格ISO9000との関連でも重要です。計量器の校正をする事業
所の能力を審査し、お墨付きを与える仕組みが計量法認定事業者制度(JCSS)で、トレーサビ
リティを保つのに重要な制度です。
その昔、材料試験機は年に一度、計量研究所(東京の本所と大阪の支所の二カ所だけ)のお役人に
出張して頂いて検査する必要がありましたが、現在はその必要はありません。ただ、野放しになっ
た訳ではなく、「工場管理のため計測精度を自主管理したい」「ISOを取る」「自動車メーカー
に部品を納入するにあたって精度管理を求められた」と言った場合は、分野ごと(この場合は力計
/一軸試験機)の認定事業者に検定してもらうと、ちゃんと国家標準につながるトレーサビリティ
が保たれることになります。

・秤の基本原理

秤は 次の二つの仕掛けの組み合わせです。
  サンプルに働く重力と、基準になる力をつりあわせる仕掛け
  つりあっているかどうか、を知る仕掛け

基準になる力には 次のようなものがあります。
  分銅に働く重力    たとえば台秤
    バネの弾性力     たとえばヒズミゲージ式のロードセル
    振り子の復元力    たとえば、昔、鉄道や郵便局で使われた料金はかり
  そのほか 圧力 浮き子の浮力 電磁気力 など。

釣り合っているかどうかは、針で指示したり差動トランスや近接SWで検出したりします。

・ロバーバル機構



秤というと、昔はすべて図のように測定物や分銅を載せる皿をつり下げて支点より下にある方式で
した。L1×W1 = L2×W2  で釣り合います。
つり下げる式だと、糸がじゃまになるので、普通の秤は支点より上にある皿や台にものを載せます
が、これだと皿に置く位置によって支点からの距離が変わることになり、はなはだ不都合です。
これを避けるために考案されたのがロバーバルという平行四辺形を使うリンク機構です。



つり下げでない秤には必ずこの機構が付いていますし、ロードセル自体にも組み込んであります。
ものを載せる台のどこに置いても同じ結果になる(偏置誤差)のは、秤の重要な特性ですが、
  左右方向は、ロバーバルが正しい平行4辺形になっているかどうか
  前後方向は、刃(ナイフエッジ)が正しく平行になっているかどうか
によって決まります。
お手元に小中学校の理科で使うような上皿天秤があったら、よくご覧になってください。デジタル
表示式でなく片方のサラにはかるもの、片方に分銅を載せて釣り合いを中央の針で見る原始的な型
です。平行四辺形の下半分がカバーに隠れているでしょうが必ずこの機構が組み込まれています。

・フォースバランス式秤

デジタル秤はロードセル式が多いのですが、そのほかにフォースバランス式があります。台にサン
プルをのせると重力で下がりますが、その変化を差動トランスでとらえ、電磁石に流す電流をサー
ボで変化させて、つねに釣り合うようにします。結果として流している電流の強さから力(重力)
を求めます。
ロードセル式より複雑な機構で、値段が高いですが、精度は二桁以上良いです。
普通に入手出来るもっとも高精度の秤です。分析用精密天秤はこの方式です。

・そのほかの秤

  音叉式   精度はフォースバランスに匹敵する。本質防爆。安定性が良い。
        周波数として出力するのでA/D変換不要。
  弦振動式  原理は音叉と同じ。低価格でデジタル表示。
  静電容量式 駆動電力が小さい。A/D変換不要。
  磁歪方式  大加重に対応。
  ジャイロ式 大加重向けに実用化。

・落差補正

作業者が秤をにらみながら手で計重するときは関係ないのですが、自動はかりを使った場合に必ず
発生するのが、落差の問題です。
ある液体をポンプで秤に送り、設定の100Kgに達したときポンプを止めるとします。ポンプは
ただちに止まるのですが、そこから秤までの配管内と空中にある液体は落ちてしまうので、設定の
100Kgより多く秤に落ちます。この差を落差と言います。仮に5Kgとすると、ねらいが10
0Kgなら、95Kgのときポンプを止めればうまく行く、はずですが...
落差は、ばらつくものです。
ねらいの近くまで全速力で落とし(大出し)、近くなったら速度をぐっと絞る(小出し)というの
が標準的な方法です。
・月一回の保全日に、何回か試しに落としてみて落差や小出しの設定を決める。
・都度、実績をはかって、設定に補正をかける。
・落差をばらつかせる原因に手を打つ
などなど、生産技術の知恵の出しどころです。

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8質量計/力計の検査


・使う道具

分銅

  質量の基準です。大型の秤では一個20Kgのまくら型分銅を何個も使います。この大きさま
  では手で扱えるので。更に大きな分銅もあることはあります。
  適当な鉄のかたまりなど見つけ、正確にはかって仮分銅として使うやり方もあります。
  要は、使っている間の正確な質量が保証できれば良いのです。
    浮力補正については前に述べました。
  バネ秤の校正に使う時は、重力の加速度 g の場所による違いも考慮します。

ループ

  力の基準です。要するに鉄のワッパですが、力を加えるとひしゃげるので、その変化をダイヤ
  ルゲージではかります。分銅などを使った基準器で力を掛けて、力と変形の表を作り、検査に
  使います。引張でも圧縮でも変形するはずですが、力を掛ける部分の構造の関係で、普通は圧
  縮方向のみで使い、引張の場合はコンプレッション・ケージという治具で変換します。

・一般的な検査

目盛りの正確さ

    秤量(フルスケール) 秤量の 3/4 1/2 1/4 の荷重を掛ける。ゼロ点も見ます。
  分銅を使いますが、大荷重の力計ではループなども使います。
  新品の公差は、±1目盛(検定公差)。使用公差は、±2目盛。
  この考え方は質量計に限らず、計量器すべてに共通します。つまり、保証できるだけ目盛りを
  付けることが許されます。(計量法令で)
    最近のディジタル表示の場合など 表示桁数はいくらでも細かくできますが、この考え方で歯
  止めされています。

感度(秤屋の世界では「感じ」という場合があります)

    秤量の荷重を掛け、さらに最少目盛りに相当する荷重を加えたとき、にらみなどが動くこと。

4隅(誤差)
    秤量の 1/4 の荷重を、図のように台の4ヶ所にかけてみて差の無い事。



外観

休め
    ナイフエッジを浮かす仕掛けのあるものは、秤量の 1/4 の 荷重をかけ、休めを数回動か
  して差を見る。

・ロードセル式はかりの調整

新規製作の場合の秤量の合わせ方

   分銅を積んで合わすのがもちろん正式ですが、(実分=ジツフンとか定負荷校正とか言う)
  何tといった大容量の場合は、計算などによる方法も使います。
  ・メーカーの「何トン載せたとき何mV出力」を信用して基準電圧発生器で校正する。
  ・校正用の抵抗が付いてきて「これをONしたとき何トン載せたのと等価」で校正する。

  「秤量台」として出来上がったものを購入した場合、およびサオ(こうかん)を使わずロード
  セルで直接全部の荷重を受けている場合は、ロードセルチェッカーによってアンプのゲインを
    メーカーのデータに合わせ、あとは現物でゼロ点のみ合わせます。
  さおを使った「こうかん併用」の場合は(図面から倍率を割り出しても良い理屈ですが)分銅
  で実荷重をかけるのが定石です。

    つりさげでない場合は、3個以上の複数のセルで受けるのが基本。
  コストの点から、量産しているロードセル式はかりでは台の各部分の力を機械的にサオで集中
  して1本〜2本のロードセルで受けるようにしているものもある。(こうかん併用)
  この辺の機構については、専門書で勉強して下さい。
    私は、一般計量士の受験講習会のテキストで勉強しました。計量教習所のテキストが元に
    なっていると思います。日本規格協会発行「はかりの手引き」という本も読みましたが、
    いまは絶版です。
  セルの形をしているだけのダミーを併用するやり方もありますが、セルが貴重品だった時代の
  遺産で、当然精度は良くないので、避けたほうが無難です。

ロードセルの複数使い

  まったく特性の同じロードセルをn個並列につなげば、容量n倍のロードセルと見なせます。
  多少のバラツキを平均化するために、信号の+側と−側に直列に抵抗を入れます。
  セル4個並列の場合は、抵抗が計8本使うことになります。
  抵抗は相対比が等しく温度係数の優れたもの たとえば アルファエレクトロニクス 
  MA052F500A (500Ω±0。05% 5PPM/℃)
  和算箱と言った名で既製品があります。屋外に設置できるように非常にゴツイ外観ですが、中
  身は端子台と精密抵抗です。

  組み立てたら、まずフレ止めのステーをゆるめ、風袋のかかった状態で(あるいは適当な荷重
  のかかった状態で)各ロードセルの出力を、和算箱のところで外して別々に計ります。
  それぞれほぼ同じ荷重がかかっているはずなので、ロードセルの出力にバラツキがあれば
        *シムをかませる
        *架台のひずみを直す
  などして、機械的なアタリを調整します。

  故障修理の場合は、上記の作業の前に、各セルの荷重を外して、ゼロ点を確認します。

  2割ぐらいまでバラツキがおさまれば、その位置でステーをはり、4本のロードセルをつなぎ
  こみ、四隅に順に分銅をのせて総合的に四隅を調べます。

  ロードセルを使った計重台の設計、適正なステーの太さと配置などは、私は東洋ボールドウイ
  ン社の技術資料で勉強しました。

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9.参考サイト

計量全般
計量法 「はかる」ことについては、ここが出発点です。
計量標準総合センター 旧計量研究所。計量技術の本山です。
日本計量振興協会 計量に関する民間団体がまとまっています。
計量法認定事業者 計量法トレーサビリティ制度により、計量器の校正事業を認定されたところ。
計量新報 「はかる」業界の新聞。いろいろ情報が得られます。
国土地理院 地理情報。ある地点の正確なg=重力の加速度はここで得られます。
ロードセル関係のメーカー
ユニパルス アンプや指示計のメーカーです。自社ブランドの他、広くOEMでも出しています。 「コラム」に社長が朝日の科学欄に連載された解説など、面白い読み物があります。
エー・アンド・デイ 指示計 ロードセル 材料試験機 その他の総合メーカー。お世話になったオリエンテック(東洋 ボールドウイン)は、現在ここの一部門です。
昭和測器 ひずみゲージ、ロードセル・指示計など関連機器。ゲージ関係の技術解説もある。
共和電業 ひずみゲージ、ロードセル・指示計など関連機器。ロードセル関係の技術解説もある。
ミネベア ミニチュア・ベアリングだけでなく、ひずみゲージ・ロードセル関連機器も作っています。
関連するメーカー
アルファエレクトロニクス 温度係数の小さい抵抗・計算通りの(半端な値の)抵抗などが欲しいとき、お世話になります。
横河電機 計測器関係の技術情報 カタログのほか技術資料も豊富です。
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10.こぼればなし


加重は静かに

  製品の基本特性は重さだ。ラインから出たところで重さをはかろう、と言うことになりました。
  フォークリフトで輸送しているので、複数のライン出口からのリフトの道筋の交わった場所に、
  床面を深く掘って、1トンのトラックスケールを埋め込みました。
  それぞれのラインから製品を受け取ったリフトが、その場所まで来て計重し、次に運んで行く
  のですが...
  スパン調整がすぐづれる。アンプの調整は小さいドライバ一本で出来ますが、20Kgの枕型
  分銅を1トン分載せ外しするのが大変。大汗かいてあわせても、何回かリフトを使って加重/
  除重を繰り返すと、ダメ。設備担当に移動したばかりの私が呼ばれました。

  リフトは、秤を埋め込んだ場所まで急いでやってきて、キュッと停止し、計重して、キュルキ
  ュルとハンドルを据え切りして方向転換、また急発進して次ぎに向かいます。
  風袋キャンセルのため、一回の測定で二回ずつ乗ります。何しろ忙しい。
  そのほか、通り道なので、計重しないときでも、しょっちゅうリフトがガタンガタンと通過。
  「秤に悪そうだなぁ」と思いながらバラして内部を観察したら、形だけフレ止め(ステーロ
  ッド)が付いているが、ガタガタになっていて、まるで役に立っていない。
  「秤は上から静かに加重するもの。横方向の力には弱いです。構造が不十分だし、使い方も荒
  っぽいし、根本的に考え直さないとだめですよ」「うーん、検収はあがっているしなぁ」と活
  用されないまま時が過ぎ、やがてラインの組み直し工事の時にそっくり撤去。穴は埋め戻され
  ました。

壁一枚向こうは隣りの部署

  20年以上働いてきた材料試験機を入れ替えることになりました。数トンもの力を掛けてパチ
  ンと破断強度などを測定します。温度湿度をキッチリ調整した恒温恒湿室(木質パネルで囲ま
  れている)に収まっています。荷重はロードセルで測定します。古い方は真空管アンプでした
  が、新型はもちろんICアンプです。

  設置して数週間後、設備部門の担当(つまり私)が呼ばれました。記録計が猛烈にペンブレす
  ることがある、と言うのです。常に発生する訳ではないが、たしかに記録紙を見るとひどいこ
  とになっています。「アンプが発狂しているぞ」と、早速メーカーに電話。担当営業氏が駆け
  つけました。
  「工場の調整が不十分だったようで..確認しましたからこれなら大丈夫です。」と、基板を
  一枚取り替えて行きました。
  何日かあと。「やっぱり、発生します。」

  メーカーの技術の若い方が一人やってきました。やはり基板を交換し、いろいろ調整して行き
  ました。でも、直りません。
  次に、ライトバンに一山測定器を積んで、先日の若い方ともう一人、大ベテランらしい年配の
  方がやってきました。ずいぶん時間を掛け、あちこち手を入れて「これで大丈夫、のはずです
  が...使ってみてください。」
  やっぱりダメ。お手上げです。

  解決したのは、恒温恒湿室のヌシのN君の一言でした。「隣りでウエルダーを使っている時に
  起こるような気がします。」
  木質パネルの隣りに高周波ウエルダー(高周波ミシンとも言う)が座っています。27MHz
  2.5Kw(だったかな?)を掛けた電極でプラスチックなどをはさんで溶融接着します。
  材料強度の測定とはちょっと違って、いわゆる技術サービスの仕事で製品をテストするために
  ときどき動かします。
  真空管アンプなら平気でも、ICアンプは隣りで大出力の高周波発振器が働くとダメという訳。
  ウエルダー機を部屋の反対側に引っ越して一件落着となりました。
  恒温恒湿室には、あまり外部の方に見て欲しくないサンプルなどもごろごろしているので、業
  者さんを入れるのは休みの日となり、ウエルダーも休んでいます。
  試験機メーカーの皆さん、ご迷惑をおかけしました。

  その昔、ミグ戦闘機が北海道に亡命してきました。搭載の電子機器に真空管が使われていたの
  で「いまどき、真空管かい。アハハ」みたいな新聞記事が出ましたが、よく調べてみると、核
  戦争に備えた設計で、核爆発が近くで起こると、発生する強力電磁波のためICがダウンする
  ので、わざわざ真空管にしてあったんだそうです。

  ロードセルアンプの専門メーカーにうかがった話では、台貫所の秤にロードセル式を使うと、
  必ず悩まされるのが、トラックの違法無線だそうです。「違法だ」といっても、現実にアンプ
  の近くで大出力のトラック無線を使われると、アンプが気絶してしまいます。
  アンプの入力にフェライトを巻いたりしていますが、100%大丈夫とは言えないとか。

授業料
  
  ラインにロードセル式の計重台を設置しました。(前記の「加重は静かに」とは別の工場)台
  の面積が結構あるので、セル4本使いの計重台をメーカーに発注し、その上に製品を落ち着か
  せる簡単な金物を取り付けました。
  もちろん、四隅にある基礎はしっかりアンカーボルトで固定しました。さて、分銅を積んでゼ
  ロ/スパンを合わせ始めましたが、さっぱり合いません。セル回りを固定するステーを見ても
  しっかり張ってあり、なにが原因かさっぱり解りません。思いあまって、秤屋さんに出張をお
  願いしました。

  トラックに分銅を一山積んでやってきた秤屋さんは、現物を一目見るなり「ああ、これは良く
  やるんだ。授業料をはらいましたね。」と、さっと対策し、一発でゼロ/スパンを合わせて帰
  りました。
  やったことは、セルが乗っている土台の各辺の真ん中が下がらないように、軽くシムをかまし
  て、ずれないようにバラッと線付けしただけ。四隅が固定してあっても、加重するとごくわず
  か土台がたわみ、誤差になるのです。シムをかますだけでピタリと安定しました。
 「大型の秤でこれを知らないとひどい目にあうんだよね」だそうです。



  力がロードセルにかかり、その出力をアナログアンプで増幅し、A/D変換し、ディジタル信
  号になって表示したり、シーケンサやマイコン応用機器でいろいろ処理したりします。
  しかけをみると、アンプ以降は、ICだ、マイコンだと複雑になっていますので、なにかトラ
  ブルがおこると、まず複雑なほうを疑う人が多いです。たしかに、複雑なものほど壊れやすい
  理屈ですし、近くに落雷しただけで気絶したりしますから、チェックは大切ですが、この例の
  ようにゼロ/スパンがふらふらするときは、まず力がセルにかかる部分を疑ってください。
  測定器で当たったり、基板を替えてみたりは、少なくとも、分銅を積み下ろしたり、秤をバラ
  して中をのぞき込んだりするよりスマートで、より技術的?な感じがしますが、秤の基本は泥
  くさいものです。
  大型の秤だと、ばらすだけでも大仕事だし、製造とライン停止の相談をしたり、ユニックの手
  配をしたりと大変なのですが、まずデータの入り口を固めずに後ろばかりいじってもだめです。

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